「木戸に隠しておきたいことは無いよ。」
一総が笑った。
その笑顔が何故か眩しい様な気がして理一は思わず目を細めた。
「頑張るっす。」
「だから、別に頑張らなくていい。」
窓ガラスがガシャンと割れる音がした。
異能用の強化ガラスの筈だった。
それがまるで普通の人間用のガラスの様に割れている。
月の無い夜なのは恐らくこの日を狙っていたのだろう。
人影が室内に入る。
理一はそのまま人影との間合いを詰めた。
恐らく一総一人だと伝えられていたのだろう。
嫌がらせだと、言っていたから端からこの部屋には一人しかいないと思っているのだろう。
それでも相手はプロだ。怯むことさえしない相手に理一はそんなものかと思う。
実家の仕事を知らない訳では無いが、気がはやりそうで同行することはまず無かった。
だから、プロの戦い方をきちんと知っている訳では無かったのだ。
父も、そして雷也もこうやって仕事をしているんだろうか。
それを知る方法はないので考えも仕方が無いと理一は足を上げてそのまま回し蹴りをした。
避けられるかと思ったが理一の足が綺麗に相手の腰のあたりに入る。
物が割れる様な音がしたのは恐らく肋骨だろう。
吹っ飛んだのを確認してそのまま玄関へと走る。
ドアを開けると既にそこに人はいない。
けれど気配を消しきれておらずそちらに向かう。
待ち構えていた相手を見て少し落胆してしまう。
どうして落胆したのかは分からない。
だけどこれならまだ、一総を相手にした方が楽しかったかもしれないと理一は思ってしまった。
そもそも一総と戦いたいと思ったことはないし、できれば誰とも戦いたいとは思っていないのだ。
だから、相手が弱い事は良い事ではないか。
一総が一人で対処しようとしていた相手だ遅れをとる可能性は低いのにどこかで期待してしまっていた。
それが自分の中にある暴力的な衝動に由来していることを理一は良く知っていた。
それが御仁の本質であることも九十九としての本分だという事も分かっている。
どうしようもなく目の前の人間を滅茶苦茶にしてしまいたい衝動が湧き上がってきて思わず息を吐き出す。
今コンタクトをしていて良かった。そうでなければ爛々と瞳が紅に輝いていたことだろう。
理一は一気に距離を縮めると相手の着ている洋服を掴んで逃げられない様にしてそれからもう片方の手で殴りつけた。
相手のおびえが見えた気がしたが無視をした。