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理一は朝目を覚ますと横で寝ている愛しい人の寝顔を見た。
こういう時のこの人の顔はいつもより年相応に見える。
ああ、そうだ。理一はようやく自分の頭の片隅にあるほころびを見つけた。
そのほころびを拡げたく無い気持ちが理一にはあった。
居心地がいいのだ。望んだ生活がそこにはあったし、一総は優しかった。
陥れる要素なんて微塵も感じられない位一総は優しかった。
だから、こんな優しい世界ならと思ってしまったことは事実で、穏やかに人と関わって過ごせるのであればと思わなかったといったら嘘になる。
だけど。
それでも、理一にはあの一総の表情が忘れられなかった。
あの、ほころびが無ければ、この人に依存して、一総がいなければ生きていけないという位の気持ちでいられたのかもしれない。
それを多分一総という男もよしとしていた。
元々、術が効きづらいという事は繰り返し言われていた。
この時間がずっと続くとは一総も思っていなかっただろう。
意識が少しずつクリアになっていく。
ひび割れた隙間から元々あった暴力的な衝動がジワリと広がっていく。
ああ、そうだ。これを消したくてたまらなかったんだとようやく思い出す。
きちんと思い出して、何が嘘で何が本当なのか理一には分かっていた。
それなのにも関わらず、理一の頭から一総の顔が離れない。
愛しい人だというのが刷り込みだと分かっているのに、その気持ちが自分から離れてはくれず、理一は溜息をついた。
これが自分の中に芽生えた本当の気持ちなのか、それとも一総の術の影響が残っているのか理一には分からなかった。