なんでうちに来るか?なんて言ってしまったんだろう。
わざわざ家まできてコスプレを見せて、笑われるのは嫌だった。
重い足取りで、後輩君と並んで自宅へと向かう。
「この前上げた、忍者のコスってオリジナルっすか?」
一番最近上げた動画は言われた通り忍者をモチーフにしたものだった。
「いつもより、振付が角ばっていたからどうしたのかなと思って……。」
あのコスプレはネットで見つけたキャラクターを作者の方にお願いしてコスプレさせてもらったものだ。
その方が快諾してくれた時のメッセージに書いてあったキャラクターのイメージに合わせて振り付けも考えた。
そもそも、顔の半分以上が覆面で隠れてしまっているのだ。
ほくろで気が付いた時点でおかしいのだけれど、脅したいだけにしては妙に詳しい。
思わず横を歩く男の顔を見てしまう。
「あれ?もしかして、俺がKOUさんのファンだって信じてませんでしたか?」
笑顔を浮かべながら言われて、疑ってかかっていることに気が付いている人間としておかしいと思う。
だけど、それが調子にのって動画なんて投稿しているオタクの自分に対する態度としてどうしてもおかしいと思ってしまった。
◆
「どうだ?」
笑いたきゃ笑え。別に、困ることなんぞ何にもない。
さっき話に出た忍者の衣装を着て後輩の目の前に立つ。
コスプレの為に鍛えている体も、自分で縫った衣装も、別に誰が笑ってもどーでもいいのだ。
「……綺麗です。」
そういう風に直接言われたことは無かった。
嘘だとしても嬉しい。
「そうか……。後ろはこんな感じになっているんだ。」
クルリと回ると「すごい作り込みですね。」と言われる。
「そうだろ?特に首元のデザインを忠実に再現したところにこだわってるんだけど、デザイン画みるか?」
ミシンをかけるときに確認する様にプリントアウトしたものがある。
机からクリアファイルを出すと、こちらを見ている後輩と目があう。
「もしかしてそっちが地ですか?」
何を言われているのか分からなかった。
思わず、首をかしげる。
ゴクリと唾を飲みこむ音が聞こえる。
「無意識ってやつですか?コスプレしてから妙に饒舌だし、サービス良いので……。」
言われてはじめて気が付く。
基本的に宅コスで誰かと一緒に撮影をしたりコスプレイベントに行ったことも無い。
だから、こんな風に妙に気が大きくなっている事にも気が付かなかった。
「イキってるつもりは無いんだけどな。」
「別にそんな風には思わないですよ。こんなに綺麗で嬉しそうなKOUさん最高ですよ!」
興奮気味に言われて、さすがになんて返したらいいのかわからなくて、曖昧に微笑んでしまう。
それがいけなかったのかもしれない。
半ば土下座をする勢いで、写真を撮らせてほしいという申し出に思わず頷いてしまってせっかくだから機材の準備もしてって話になって週末に会う約束までしてしまったのは、やっぱりこいつの思った通り気が大きくなっている証拠なのかもしれない。
だけど、俺のコスプレをみてキラキラした目を向けてくる後輩にやはりちょっと気分がいいのは事実だった。
了