雨の日

久しぶりに堪えた。

入学してすぐに馬鹿がやらかしたから、それからしばらく明らかに陰口だろうなってことを言われたことはあった。
だけど友達もできたし、馬鹿はイケメン馬鹿だったから顔のいいやつは好き勝手にするんだろう的に思われて終わった。

だから、こんな風に落ち込むこともずっと無かった。
もしかしたら葛西あたりがかばってくれていたのかもしれない。

その辺はよくわからないけれど、久しぶりに葛西が大学に来なくて、その日あった講義はたまたまグループワークで。
たまたまが重なっただけ。一々気にしていてもしょうがない。

毎回違うグループを作ることになっている講義だったので適当に声をかけた。
露骨にいやな顔をするその相手に、ああ失敗したと思う。

「え……、いや、俺そういう趣味ないし。」

大学に入学するまで、俺も、同性愛なんてどこか自分と関係ない世界の話だと思っていた。
正直、無意識に馬鹿にしていたかもしれない。

だから、人様に何か言える立場じゃないけれど、これはさすがに無い。

「俺も、ねーよ。」

思わず返した言葉は、いつも使ってるものより数段汚い言葉遣いだった。

「っは、だってお前男と付き合ってるんだろ?」

心底馬鹿にしたように言われ、言い返せない。
そうだけどなにか?って聞き返した方が早いのに言えなかった。

あいつは気にしないのかもしれない。
だけど、確実に立場を悪くするのは目に見えていた。

ちくしょう。

大きく息を吐く。
別に気にしてもしょうがない。
気持ち悪いっていう人間もいるだろうし、俺自身、性別の件以外はどうかしてると思う。

これ以上話しても意味はない。
前に、葛西込みで一緒のグループになった人間に声をかけると、今度はすんなりと輪に入れた。

講義が終わった後、今日一緒のグループになったやつに声をかけられた。

「気にするなよ。」

何について言われたのかはすぐわかった。
優しさが嬉しかったけれど、だけど、誰かに気遣われないといけない自分も嫌だった。

曖昧に笑って、それからすぐに大学を後にした。