最上階

※二人とも高校在学中の話

あの人の部屋に向かうと、ばったりと生徒会長と副会長と鉢合わせてしまった。

「誰の部屋に用だ?」

簡潔に述べられた言葉はごく普通の声色で単なる確認の様だ。
そもそもここに来るこという事はカードキーでエレベーターを動かせたという事だ。

「会計様の部屋です。」

そう告げると、ああと納得したように会長様は頷く。

「君、小西の恋人ですか?」

副会長が俺に近づくと顎に手を添えて上を向かせる。
視界の端に副会長の指から伸びる糸が見えた。

なんて答えたらあの人に迷惑がかからないか分からず思わず黙ってしまう。

「あいつ、割と普通っぽいやつが好きだったんだな。」

あっけらかんと会長が言う。
思わず俺も副会長もそちらを見てしまった。

五十嵐君を取り合い続けてた時の様な追い詰められた様子は会長にも副会長にももう無かった。

「ちょっと、何してるんだよ。」

声だけですぐに分かる。あの人だ。
丁度生徒会の仕事が終わる時間帯だったのだろう。

あの人は、副会長の手を払うと、俺を後ろから胸元に抱きこんだ。

「ああ、やっぱり彼が噂の……。」

副会長に言われ、生徒会まで小西先輩が昼休みに俺を公衆の面前で抱きしめてしまった話が伝わってるのだと気が付く。

「俺の恋人に気安く触らないで欲しいな。」

後ろからあの人は言う。
あの人が隠すつもりがないのであればそれでよかった。

それにあの人の匂いと体温が感じられて妙に安心してしまった。
それでようやく自分が今まで酷く緊張していたことに気が付いた。

「紹介位ちゃんとしてくれてもいいだろ。」

呆れたように言う会長の声は俺に対してより暖かに感じて、小西先輩と信頼関係を築いているんだと改めて思う。

「ああ、そうだね。俺の恋人の亘理俊介君です。」

あの人は相変わらず俺を抱きしめたままそういうと、じゃあ、そういう事だからと俺ごと自分の部屋に向かおうとする。

「おい!」
「恋人との時間は大切にしたいから、細かい話はまた今度で。」

それだけ言うとあの人はすぐに部屋に入ってしまった。

「良かったんですか?」
「いいの、いいの。
また今度皆で食事でもしよう。俺も俊介のことちゃんと紹介したいし。」
「……はい。」

そんなことを会話しているにも関わらず、小西先輩部屋に入る為に一回はほどいた腕を再び俺に回すと離れようとしない。

「何やってるんですか?」
「えー、俊介を補充してるんだよ。」

唇が首筋に落ちる。

ぎこちなくあの人の髪の毛に触れると、そっと舌で舐められた。
ギクリと固まると、さっとあの人は俺から離れる。

人との距離を掴むのがとても上手い人だ。でも、もう少しと思ってしまった自分が浅はかなだけで。

「さて、今日は二人でご飯つくろうか。」

ふわりと笑ったあの人は、材料何があったかなーと呟いている。

「お腹すきましたもんね。」
「焼きそばにしようか。」

二人で靴を脱いで鞄をおいてキッチンに向かう。
あの人は自分で料理するのが好きだと言っていた通りいつも手際がいい。

キッチンに二人並んでいるとくすぐったい気持ちになる。

「会長たちとの食事、断ってもいいんだからね。」
「……考えておきます。」

どちらでも俺にとっては、この人がいてくれればそれで充分だから後で考えればいい。
それよりも今はこの人との時間をゆっくりと過ごしたいので他の事は全部頭の端に追いやってしまおうと思った。

お題:高校時代で生徒会メンバーが出てくる話。甘々。