拍手お礼

<拍手ありがとうございました!> ※新作短編

真剣な眼差しで、恋人を紹介するあの人も、あの人の横ではにかんだ顔をしているあの人の恋人も、なによりそれを祝福しているであろう周りの雰囲気が嫌だった。


自分があの人の単なる遊び相手だってことは知っていた。それにその遊び相手が複数いたことも知っていた。
あの人との間には甘い雰囲気は何もなくて、ちゃんと遊びなんだって分かってなければいけない状況だったのに、それでも、僕はもしかしてという気持ちを持ってしまった。


そんな『もしかして』は結局欠片も無かったのは目の前の状況を見て分かる。


僕はただの馬鹿なんだろうってことは自分でもよく分かっているし、この場に一番いちゃいけない人間だってことはちゃんと理解できてる。
だけど足がすくんで上手く立ち去ることができなかった。


あの人の恋人と目が合う。
ビクリとおびえたように固まる恋人にすぐに気が付いたあの人はこちらを睨みつける。

別に僕はあの人の事も、あの人の恋人の事も睨んでなんかいなかった。

ただただ悲しい気持ちになっていただけなのに、ああ、そこまで信用すらされてなかったのかと思い知る。

あの人の不器用なところも孤独なところも愛していたのに、それを最初に見つけたのがあの人の恋人だったみたいな言い方がただとても悲しかっただけなのだ。

「す、すみません、僕。」

洗いざらいぶちまけてしまった方がまだマシだったのかもしれない。
だけど僕の口から出てきたのは謝罪の言葉で、自分のことながらダセエと思う。

一瞬で場の空気が悪くなるのが自分でも分かる。
目頭が熱くなって、なんだか泣いてしまいそうだ。

「はい、そこまで。」

瞼の上から手のひらで覆われる。
その声が誰のものなのかはすぐに分かった。

「朔夜……。」

幼馴染の声に思わず名前を呼んでしまう。

「だから、やめとけと言ったんだ。」

幼馴染が耳元で囁く。その話しは何度も聞いた。

だけど仕方がないじゃないか。僕はあの人の事が好きだったんだから。

「こいつ、連れ帰っていいでしょうか?」

昔から変わらない口調で幼馴染が言う。

「ちょっと待て。キャラ変わってるだろ。」

思わず突っ込みを入れたのは幼馴染と仲の良かった男だった。

「だって、こいつが不良っぽいのが好きなんだと思ったんですよ。」

と返す。
それから、幼馴染は目を覆っていた手を離すと、今度は俺の耳をふさいだ。

だからそれから数秒間、幼馴染が何を話したのかは知らない。

「さて、帰るよ。」

僕の意見なんて幼馴染は聞きやしなくて、仕方がなく一緒に帰る。

「他にもっといい人間はいるから元気だせ。」
「他のいい人なんて……。」
「例えば俺とかはどうだ?」

幼馴染はあまりにも普通にそう聞く。
だから、僕を元気づけようとしているのだとその時は思った。

けれど、さっきの不良っぽいのが好きという話しが頭にこびりついて離れない。

「いや、あの、え?」
「やっと、本気で気が付いたんですかー?」

幼馴染はケタケタと笑う。

「まあ、うちに帰ってゆっくりと考えてください。」

それだけ言うと後は無言で彼の自宅についてしまった。

to be continued