寮の同室の相手の頭が多分少しだけおかしい。
ときどき、深夜俺のベッドに入り込んでくるのだ。
それだけであれば、ああ寝ぼけてるんだなという話なのかもしれないが、問題は入り込んできた後自慰行為に及んでるらしい事だ。
らしい。
そんなもの「いま、オナってる?」って突然聞くわけにもいかない。
多分、あいつは俺が眠りこけてると思ってやっているのだろう。
いや、今おれ起きてるんだけどっていったらどうなるかなんて想像できない。
翌朝、あいつは何事まるで何事もなかったかのように、普通に朝の挨拶して普通に学校に行くのだ。
それをもう何度も経験しているので、何も言い出せない。
◆
あいつの荒い息が首筋に当たってドキリとする。
ごそごそと布のすれる様な音がしているのはいつもの事だ。
他人の気配を感じなきゃ興奮しない特殊性癖のやつなのか、それともそれ以外の理由なのかはあまり考えない様にしている。
それを知ったとして俺に協力できそうな事はないので聞いても無駄な気がする。
もしも、いま俺が身じろぎしたらどうなるのだろうか。
寝返りのフリをして体を向き合わせたらどうなるのだろう。
背中側で始めてるから寝たふりを続けられている奇妙な境界線の中でそんなことを思う。
だけど、こいつが一体全体どんな顔で今いるのだろうという事も、同じ位気になるのだ。
寝たふりのための静かな息づかいを繰り返しながらそんなことを考える。
考え事をしていたのがいけないのだろうか。
それとも、こいつは俺が起きていることに気が付いているのだろうか。
突然手を俺の腹側に回して、Tシャツの裾から手を突っ込んできたのだ。
うおっ……という声を飲み込んでじっとしていると同室者の手が俺の胸のあたりを探る。
もしかして女と勘違いしてしてるんじゃないかと思った。
やっぱり何らかの事情で寝ぼけてるんじゃないか。
そうじゃなきゃ俺の胸をまさぐる理由が分からない。
手はしばらく胸のあたりを撫でると、乳首を指のはらで押してくる。
なにか別の人と勘違いしてるか、誰かの代わりにされているのか。
そんなところだろう。
やっぱり目が覚めたという事を伝えた方がいいんじゃないかと決めたところで、乳首をつままれる。
「ひッ……」
思わず吐息に混ざって変な声がもれる。
何だこれ。ちょっと、まずい。色々とまずい。
振り返ろうと決める直前で良かった。
変な声を出して、声をかける訳にもいかない。
一回やって意味のない事だと気が付いて、なんなら声が気色悪いなって気が付いてやめてくれればいいのに、指がさっきよりももっと執拗に乳首をこねる。
我慢して息が詰まっても怪しまれる。
かといって変な声を上げ続けるのありえない。
時たま漏れてしまう声に感情がこもってしまってるのじゃないかと気が気じゃない。
「眠ってても、気持ちいいんだな……」
背後で言われた吐息混ざりの声に、ぞわぞわとした感情に襲われる。
それを気持ち悪い所為だと自分に言い聞かせる。
否が応でも伝わってくる興奮交じりの声にいよいよ、起きてますなんて言えなくなる。
硬くなっているものが太ももに当たっていることにもちゃんと気が付いている。
当たっているというよりも多分擦り付けているのかもしれない。
乳首に爪を立てられて思わず甲高い声を上げてしまう。
口に手を当てて、恥ずかしい声を止めたい。
だけど、結局何にもできずただただ声を上げるばかりだった。
了