春は好きだ。
桜も好きだ。
あまりがちゃがちゃした雰囲気は好きではないけれど、こうやって公園の端に植えてある桜を見ているだけで心が華やぐ。
見上げた桜は見事に満開で、せっかくの休日態々散歩コースにここを選んで良かったと思う。
桜の枝にはもぞもぞと動く少し大きめの小鳥がいた。
パクリ。
桜の花を食べている。小鳥を見て目が釘付けになる。
こういう小鳥とかカタツムリとかそいうものがとても好きだ。
あれはなんという鳥だろう。
灰色がかった体で器用に花を食べている。
立ち止まって枝をじいっと見てると、時間が経つのも忘れてしまいそうだ。
「なんていう鳥だろう。」
帰ったらネットで調べてみよう。
一人なのに思わずつぶやいてしまう。
「ああ、あれはヒヨドリですね。」
突然話しかけられて思わず「ひぇっ。」と言ってしまった。
その声に驚いたのか鳥は飛び去ってしまう。
可愛らしかったのに残念だ。
「す、すみません。
あまりにも真剣に見てたから。思わず声をかけたけど迷惑でしたよね。」
隣に立って俺と同じように桜の木を見上げながら知らない男は言った。
俺よりも幾分か若く見える男は多分大学生だろうか。
染めた髪の毛の少し茶色の様なオレンジ色の様な不思議な色が少しひよこっぽい。
「あ、あっちにメジロもいますよ。」
彼の手の伸ばしてさ示された先の枝に、先ほどより少し小さな小鳥が桜の花にくちばしを突っ込んでもごもごしている。
こちらも可愛らしい姿に思わず頬が緩む。
「ほんとだ。滅茶苦茶かわいいですね。」
「……そうですね。」
少し間があって男から返事が返ってくる。
ああ、馴れ馴れしすぎるか。
当たり前だ。
別に知り合いでもなんでもない人に、突然そんなことを話しかけても普通に気持ち悪いだけだ。
「すみません。」
先ほど隣の男が謝ったのと同じセリフだった。
ははっ、と隣に立つ男が笑った。
「別に先に話かけたのこっちだし。」
それに俺も花とか鳥とか好きだから。
花に突っ込んでいた頭を出して小鳥がこちらをちらりと見た気がした。小鳥はその後、次の花に頭を突っ込んでいる。
少し緑がかって見える鳥はとてもかわいい。
暫く二人で並んで桜の木を眺める。
どのくらいの時間がたったのだろう。
鳥が満足げに飛び立つ。
あんなに可愛かったのに残念だ。
隣に立つ男を見ると目が合う。
「あ、初めまして。」
何となくそんな事を言ってしまうと、茶色いひよこみたいな髪の毛をした男は面白そうに笑った。
「これも何かの縁ですし、ちょっと寄り道していきませんか?」
そう言われて、思わず驚く。
「そうだな。この先のカフェに桜色のミルクティがあるんですが折角だからどうですか?」
思わず頷いてしまったのは男の髪の毛がひよこみたいだったからだろうか。それとも、その人懐っこい笑顔の所為だったのだろうか。
ざあっ、と風が吹いて、桜の花びらが舞う。
それがあまりにも美しくて、なんで初めてあった男とという気持ちは吹っ飛んでしまう。
「綺麗ですね。」
もう一度桜を見上げて男が言う。
俺が頷くと「さあ行きましょうか。」と男が笑った。