「飯は後じゃあだめですか?
どうせこの程度じゃ死ねやしない。」
理一はそう言うと、一総に口づけした。
舌を差し込むと一総の舌を一舐めしてすぐに唇を離す。
「木戸は俺が怒ってるって――」
「分かってますよ。」
当たり前っすね。と理一は笑った。
「鉄臭かったですかね?
さすがに少し逆流してて。」
まるで日常の一コマのような気楽さで理一が言う。
一総の口から今日何度目かもわからない舌打ちが聞こえた。
「先にベッドルームでいいか?
せめて体を洗ってからにするか?」
一総が聞くと理一は「先輩は鉄の匂いがしたら嫌ですか?」と逆に質問してきた。
一総は無言で理一を抱き上げるとベッドルームまで歩いて行く。
ベッドの上に理一を下すと自分の指先を手のひらを上にして、理一に差し出した。
「舐めろってことですか?」
「少し違う。」
一総はそう言うと自分の右手で差し出した左手の手のひらを右手で切り裂いた。
「飲んで。」
ぽかんと見上げる理一に一総はそう言った。
血に濡れた手を差し出して一総は笑顔を浮かべた。
「ある程度の滋養強壮効果と体力の回復にはなるだろうから。」
ただし、興奮作用は唾液の比じゃない。まあ木戸は効きにくいから大丈夫だろうけど。
「飲んで?」
黙って一総を見上げる理一にもう一度一総は言った。
理一は血色の悪い顔色のまま笑った。
「俺が断ると思いましたか?」
理一は戸惑うことなく一総の左手に舌を這わせる。
鉄臭いに匂いが口の中に広がって自分自身の血の味を消していく。
血が甘いなんていうのは嘘だ。
腹をえぐられて血をなめる。これでは化け物というよりは獣だ。
理一は舌で掬い取った一総の血液を飲み込む。
一瞬の躊躇はあったが、嫌悪感はない。それよりも一総は自分のことを傷つけて大丈夫なのかと気になる。
「あの。もう……。」
「もう傷はふさがってる。
全部舐めとってくれるか?」
最初の頃の様な妖艶さはもう出してはいない。
けれど、微笑んだ一総からにじみ出るやさし気な眼差しとそれと相反するようにさえ見える情欲を孕んだ瞳に、理一はぞくりと震えた。