締め切り編(30万ヒット企画)

インターフォンが鳴ったがひたすら無視していた。
それでもずっと鳴りつづける音に痺れを切らして玄関へと向かった。

今は一分一秒も惜しいのに、一体なんだ。
新聞の勧誘なら怒鳴ってやろうとドアを開けると、そこにいた人物に驚く。

安田が若干怒ったような顔でそこには立っていた。

「締め切りヤバいなら言ってくださいよ。」

何を言われたか分からなくて思わず呆然と安田を見た。

「……呟いてたじゃないですか、やばいって。」

そこまで言われてそれがSNSに書きこんだ進捗報告だということに気が付く。

「それだけで来たのか?」
「いいじゃないですか。充分な理由ですよ。」

差し入れ買ってきたんですよ、と言いながら安田は上がり込む。
コンビニに行く時間もなかったので正直ありがたかった。

貰った炭酸飲料を流し込んで再びPCに向かおうとすると、安田に声をかけられた。

「これ、資料ですか?片付けちゃって大丈夫ですか。」

床にまで広がったグラビアとアニメの設定資料集。
かなりきわどい本も散らかっていて、いたたまれない。

「設定資料集以外はいらない。」

こんな時に気の利いたことが言えない自分が恨めしいけれど、そんな事考えてる暇は今はない。
暇があっても碌な事は言えないが、仕方が無いだろうコミュ障なんだから。
印刷屋のタイムリミットは迫っていたのでそのまま原稿に向かう。

時々画面を覗き込まれてた気もするけどあまりにも集中していてよく覚えていない。

原稿の送信が終わってほっとすると、飯にしませんか?と安田に聞かれる。
そういえばお腹は減っている。自己主張するみたいにくぅとなって恥ずかしかった。

簡単に作ってあると言われて並べられた料理は炊き込みご飯とみそ汁で、原稿明けにこんな優しい料理を食べたことは無くて思いっきりかきこむと限界が来たようでそのまま眠ってしまった。

二人で食べる食事が幸せだという事を始めて知った。
知りたくなかったことなのかは寝てしまったのでわからない。