「よう。」
仕事帰り自宅のある最寄りの駅で呼び止められる。
声のしたほうを向くと、そこにいたのは高校時代の友人で、あまりにも懐かしい顔に思わず声を失う。
そいつ、三宅はまるでいたずらが成功したみたいにニヤリと口角を上げた。
「久しぶりだな。」
なんとか声を出す事に成功した。
「ああ、久しぶりにこっちに来たから、お前どうしてるかなーって思って。」
「そうか。」
なるべく不自然にならない様に、何も気が付いていない様にそう自分に言い聞かせながら返事をする。
「俺んち寄ってくだろ?久しぶりにお前と飲みたいし。」
家にアルコールの類を買い置きしてあって本当に良かった。
コンビニに寄るのも惜しい。だって、三宅はいつかえってしまうか分からないのだ。
「そうだな、たまにはいいよな。」
三宅がそう返してくれて心底安心した。
二人で連れだって駅から自宅への道を歩く。
住宅街を抜けていく帰路は一戸建ての家が並んでいて、薄暗くなってくる空に家々の灯りがぼんやりと灯っている。
少し前までは、自分が味わうことができない幸せの象徴だと思っていたこの風景も今ではあまり心が痛まない。
世間でいう幸せの形なんてどうでも良かったことに気が付けたのは、ほんの3年前だ。
横を歩く三宅に視線を移すと三宅もこちらを見ている。
双眸が細められてクシャリと笑った表情は俺が一番好きだったものだ。
ずっと見ていたいのに、それでも直視していられなくて思わず下に視線を落とす。
目に入ったのは三宅の手で、唐突に高校生の時「手を繋ごうか。」と言われて思わず断ってしまったことを思い出した。
あの時は恥ずかしさともし誰かに見られたらというのでいっぱいで、恋人らしいことをしたいみたいな気持ちよりそっちの方を優先していたと思う。
今なら。そんな馬鹿みたいな気持ちが出てきたってしょうがない。
自分にそう言い訳してそっと三宅の手を取った。
ビクリと三宅の体が揺れる。
「どうし――。」
「別にたまにはいいだろう?」
耳が熱い気がする。
多分顔色も面白い事になっているのかもしれないけど、周りには三宅以外誰もいないしそんな事はどうでもいい。
俺が何も言わないと三宅が俺の手を握り返してくる。
あたたかな手にそれだけで涙が溢れそうになる。