※王ヴァイ 猫是 ワンライツ企画提出作品
小さい頃、ママと内緒話をするのが好きだった。
その時間はキラキラと光る宝物みたいで、ずっとずっと同じ様に誰かとひそひそ話をしてみたいと思っていたんだ。
* * *
ママが帰ってこなくなって、内緒話をする相手は256だけになった。
毛布をかぶって、こちらを見る256にそっと話をする。
256はキョトンとこっちを見て、それから僕の顔を舐めるんだ。
二人で笑って、もう少しだけ僕は256に内緒話をして。
犬の表情筋は動かないけれど256も喜んでいるってすぐに分かる。
そうすると、段々眠くなってきて、いつも256の横で眠ってしまう。
毛布をかぶっていると外の世界が遮断されて僕と256と二人っきりみたいで、それが酷く安心する。
誰にも邪魔をされないで、嘲笑されず、優しい時間が過ぎていく。
内緒話をする時間は相変わらず僕にとって宝物だった。
そんな話をぽつりぽつりと、彼にしたらニンマリと面白そうに笑った。
「まあ、ハッカーは秘密基地みたいなものが好きだろ?」
金髪から黒髪に色を変えた男は言った。
「俺も、兄弟でひそひそ話をするの、ちょっとだけ憧れたかも」
耳元でさこしょこしょって、と実際に僕の耳元に口を近づけられて慌てて後ずさる。
耳がくすぐったかった。
意図はまるで分からないけれど、laughingcatを名乗っていた男は、何かにつけて僕に触れようとした。
「やだなあ、zer0。
いつでも、内緒話はできるんだよ。
勿論ヴァルともね。」
ふと、ニヤニヤとした意地悪気な顔から少し違う顔になった。
僕は人の感情を推し量るのが苦手なので彼の表情が変わったことだけは何とか理解できたけれど、それ以上のことは分からない。
彼が指さしたのはPCのディスプレイに表示されたチャット画面だった。
そこには、あの美しい人からのメッセージが表示されていて、彼はこれも内緒話だよと笑った。
宝ものみたいな時間は今も続いているのだと、笑いあった。
それはママと笑いあった時と少し似ていて、おなかの上あたりが暖かかった。
了