KV 軍パロ(昴)

「昴、…昴なのか?」

くしゃくしゃに顔をゆがめ坂井大輔は一歩一歩その青年に近づいた。
その青年は10年ほど前に殉死したはずの御手洗昴にそっくりだった。否、昴そのものという容貌をしていた。

大輔は昴の肩を掴んで嗚咽を上げる。

「失礼ですが、階級章から坂井大輔准将とお見受けいたします。自分は確かに御手洗昴曹長でありますが、何か御用でしょうか?」
「昴何言ってるだよ。昔みたいに大輔って呼べよ。」

正に哀願という言葉がぴったりの声で大輔は昴に言った。
その言葉を聞いて昴はようやく合点がいったようで静かに話し始めた。

「大変申し訳ありませんが、坂井准将のおっしゃる御手洗昴と自分は別人のようです。
我々『御手洗昴TYPE』はこの戦争の為に作られた人工生命体です。オリジナルを元に自分も5年ほど前に製造されました。」
「何を言ってるんだよ昴。」
「恐らく、自分は坂井准将の見知った御手洗昴と何ら変わりないでしょう。准将が最後に御手洗昴とあったのは何年前ですか?変わらないということ自体が自分と准将の御手洗昴が別人だという事の証明になるかと思いますが…。」

昴はやんわりとしかし確かな拒絶と分かる手つきで肩に置かれた大輔の手をはらい、一度お辞儀をした後、そのまま歩いて行った。

その場に残された大輔はそのまま茫然と立ち尽くしていた。

「……なあ昴。これが俺の罪なのか…?」

かつての戦友に向けポツリとつぶやいた言葉を聞く者はいなかった。

* * *

御手洗昴は執務室に小走りで向かうと滑り込むように室内に入った。
中に人が誰もいない事を確認すると、そのままズルズルと座り込んだ。

昴は坂井の事を知らない風なそぶりであったが実際には知っていた。

そう、『知っていた』。
処理能力の向上の為に『御手洗昴TYPE』にはオリジナルである御手洗昴の記憶の一部がインプットされている。

「これが、オリジナルの感情なのか、それとも僕自身の感情なのかさえももう分からないなんて滑稽だな。」

昴は泣き笑いの表情をしながら、手で顔を覆う。
涙はこぼれなかった。

「僕はあの人とは違う。だから、もう……。」

昴は立ち上がった。もう表情はいつものものに戻っていた。
しかし、その瞳には強い決意が浮かんでいた。