KV 坂昴→坂是

※王ヴァイ 坂昴っぽいというか坂是っぽいというか…

「うわ~、結構色々しまいっぱなしになってるな。」

わいわいと、ヘッジホッグの面々がしまいっぱなしになっていたケーブルや外付けHDを取り出しながら言う。
久しぶりに、渋谷の要塞内の大掃除をしようという事になり皆で手分けして片付けていた。

勿論、是枝一希もかりだされ、一緒に片付けをする事になっていた。
ただ、彼は天性(?)の不器用さが災いして手伝っているのか邪魔しているのかさえよくわからなかったが、本人的にはとても一生懸命やっていた。

一希は棚の上にあった段ボール箱を取ろうとして、案の定転んでしまい且つ箱の中身をぶちまけてしまった。

「大丈夫か!!」

坂井大輔が慌てて一希に駆け寄った。
幸い箱の中身はUSBメモリやCD-ROM等の軽いものだったため、一希は怪我もなく坂井を見上げた。

ふと、引き寄せられるように一希は一つのUSBメモリを拾った。
その様子を見ていた坂井は一希の手にあるUSBメモリを確認して、目を見開いた。

「……?」

坂井の様子を見て、訳が分からないという顔をする一希に、「何でもない。」と坂井はあいまいに笑った。

「これも捨てるやつですか?」

唐沢が散乱した物を拾いながら聞いた。

「ああ、かなり古いやつだからもう使えないだろう。」

坂井はそう言って一希に向かって手を伸ばした。

「それは、もうしばらく取っておきたいやつなんだ。」

それを聞くやいなやヘッジホッグの面々がはやし立てる。

「なに、恥ずかしい写真とか?」
「元カノの写真やないか?」
「うるさい!!」

坂井の怒鳴り声によって、一瞬シーンとなるが、直ぐに笑い声が響く。

「坂井さんムキになって、図星ってこと!?」

等と相変わらずだ。

「これの中身は、意味不明な文字と数字の羅列ファイルだよ。」

苦虫をかみつぶしたような顔で坂井が言うと、とたんに目を輝かせる一希にヘッジホッグはやれやれ、また始まったよと自分が元々片付けていた場所に戻って行く。
一希は、パタパタと小走りで愛機のX41を取りに行くとニコニコしながら坂井に向かって手のひらを差し出した。
そのメモリを貸してくれの合図だ。

坂井は逡巡した後、ため息とともにそのUSBメモリを渡した。
一希は掃除にこのビルに来た事も完全に忘れた様子で、USBメモリの解析を始めていた。

坂井はUSBの中身が気になるという気持ちと、何となくここに居てすべてを知ってしまうのが怖いという気持ちの両方にさいなまれ、結局室内をうろうろする羽目になった。
何故なら、あのUSBメモリは御手洗昴が遺した物なのだから。

どのくらい時間がたっただろうか、いつもであれば一希はとっくに解析を終えて結果を坂井に知らせに来るだろう。
それが無いということはただ単に壊れたファイルだったということだろうか?それとも経年劣化で既にUSBメモリが物理的に駄目になっていたのだろうか?

坂井は一希に声をかけた。

「おい、終わったのか?」

一希は、ビクリと肩を揺らして、恐る恐るという風に坂井の方を見上げた。
しかし、そのまま視線を逸らして、そろそろと目を泳がせる。

「あ…、お別れと告白で挨拶なんです。」

主語どこ行ったという何時もの話し方なのだが、何か様子がおかしい一希を不思議に思った坂井だったが、どうやら解析は終了したようだ。
ドクドクという心臓の音が聞こえない振りをして坂井はもう一度一希に訊ねた。

「何が書いてあったんだ?」

一希は意を決したように、x41のディスプレイを坂井の方へ向けた。
そこに書いてあったのは昴からの最期のメッセージだった。

「このメッセージをあなたが読んでいるということは、この暗号を解読したハッカーがあなたと共にいるという事ですね。
その事実に大きな安堵と少しの嫉妬を覚えます。

こんな事になってしまった今だから言えますが、あなたの事を愛していました。

願わくばこのメッセージがあなたに読まれる事が無い事を祈って

御手洗 昴」

時間が止まってしまったかのように、動かない坂井のTシャツの裾を一希はギュッと握って口を開いた。

「僕は、坂井さんに見捨てられない限り、この船を下りたりしません。」

その言葉を聞いた坂井は、すがるように見つめる一希を掻き抱いた。

「大丈夫、大丈夫だ。」

一希に言っているのか、自分自身に言っているのか、それは坂井自身にもよく分からなかった。
ただ、今度こそ、この腕の中にあるぬくもりを決して離してはいけないそれだけは確実な事だった。