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「花島を辞めるかも知れない。」

静かに一総は言った。

「辞めるって何すかそれ。」

一般論として異能の一族は辞めるとか辞めないとかそういった種類のものではない。
はい辞めますで、別の人生が歩めるのであれば、誰も苦労しない。

それを一総が理解していないとは思えなかった。
だからこそ、理一には何を言っているのか理解できなかった。

「“仕事”していないんだよ。」

だって、そこまで言いかけて理一は言葉を飲み込んだ。
実際に一総が仕事をしているところを見たことがない。

噂は沢山聞いたし、それを否定しない一総も見た。
何度か客と思われる学園内の生徒と一緒にいたところも、理一は見たことがあった。

一総の能力の片鱗を確認した今では、それが本当に客だったのか客から指定されたターゲットであったのかまでは分からないが。

だからといって、一総の仕事内容を知っている訳では無いのだ。
セックスしているとこの学園の誰もが思っているだろう。

理一は一度大きく息を吐いて、それから吸った。

「あんたの仕事って何なんすか?」

一総を見据えたが、相変わらず普段と違う雰囲気を纏ったままの一総は動じた様子もない。

「普段の仕事はセックスセラピストみたいなもんだよ。」

困ったように一総が笑った。
眉根が寄っていて年相応の笑顔は、話の内容とまるで合っていない。

「本当の仕事は精神操作っすか?それとも暗殺あたりですか?」

態と話を遠回りさせているような気がして、嫌味を込めて理一が言う。

「どっちもやるよ。別にそれが嫌な訳じゃないんだ。まあ罪悪感が無いって言ったら嘘になるけど。」
「じゃあ、何が嫌なんすか!?」
「不特定多数とセックスをするのが、かな。」

頭をガーンと殴られた気がした。
なんだ?これは。

「……セフレ解消のお願いに来たって話ですか?」

乾いた声が出た。まるで言葉が上滑りしているみたいな錯覚を理一は受けた。

「違う。木戸は全く周りが見えて無いな。」
「は?何言ってるんすか?」
「お前と以外は、したくないって言ってるんだよ。」
「偏食家ってことですか?」

そこで、一総は長い長い溜息をついた。

「なんで、そうなる。
……木戸のことが好きって事だろ。」

こめかみを手で押さえながら一総がいう。

「は?」

驚いた。
いや、驚いたなんてもんじゃないのかもしれない。
理一は思わず口をぽかんと開けて、一総を見た。

「変な顔。」

一総は声を出して笑った。

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