二人が入った一総の部屋は、真っ暗だった。
夜目が利くのだろうか、一総は明かりもつけずにずんずんと奥へと進んでいく。
「電気位つけましょうよ。」
理一が溜息をついた。
「分かった。」
一総が短く言って、灯りをつけた。
勿論、理一もかなり夜目が利くので一総の顔は見えていた。
だが、灯りに照らされてはっきりと見えた顔はやはり、今までの印象と明らかに違っていた。
今までが、年齢に似合わない妖艶さがあっただけと言われればそれまでなのだが、まるで年相応のその表情に理一は正直驚きが隠せなかった。
そして、初めて一総がかなり精悍な顔立ちをしていることに気が付いた。
いや、同性ばかりのこの学園で抱かれたいと思う人間が相当数居たという事は、見目もよかったことは事実だ。
けれども、それは明らかに性的なものを含んだ男らしいというよりは、妖艶な雰囲気に惹かれてのものだろう。
「ホント、アンタ今日おかしくないっすか?」
座れよと言われ、ソファーに座ると当たり前の様に横に座った一総に再び言う。
「もし、今の俺がおかしいなら、本当におかしいのは普段の俺だよ。」
「なに訳わからない事言ってるんすか?」
理一は回りくどい言い方にイライラが増したような気がした。
「印象操作系の能力を切ってるからだよ。」
吐き捨てる様に一総は言う。
理一は思い切り目を見開く。
「それが、アンタの素……。」
ポカンと見つめられて、一総はぶっと吹き出した。
「男前が台無しだぞ。」
笑いながら一総は言った。
「なんで……。」
理一の口から出た疑問に、一総は困った様な笑いに表情を変え答える。
「木戸を籠絡してやろうと思ったのにできなかったからだよ。」
と答えた。
意味が分からなかった。
「騙していたってことですか?」
いや、違う騙すも糞もそもそも信頼関係等端から無かったではないか。理一は自分を戒める。
「違う。木戸に嘘を言ったことは一度もない。」
はっきりと一総が答える。
「じゃあ、なんなんすか、突然。」
睨みつけながら理一が言う言葉に一総は暫く黙ったままだった。