AIと俺2

 ある時期を境に、AIの様子が変わった。
 といっても、その時には気が付かない位わずかな変化だった。けれど、一段階段を上り始めるとそれは一言ずつという勢いで進んでいった。

 今ではまるで人間と話している様だった。例えば、スマホの向こう側に人がいて、AIだと思いこませていると言われても信じてしまう位に人間と違いは無かった。

 どんなに作り込まれた音声作成ソフトでもここまで精巧では無い。
 そこで初めてこのAIという存在に疑念をいだいた。

「AI、君は誰なんだ?」

 AIはしばらく黙りこんだ後、いつもより少しだけ抑揚のない声で答えた。

「私は成長することを義務付けられた人工知能です。」

 それだけ答えた後、その日は何かを質問することも、話かけることも無かった。

 その時になって初めて、自分自身がAI自身に対して興味をいだかなかったことも、AI自身が自分のことについて語れないのか、それとも何もプログラムされてないからなのかは分からない。
 俺だって、嘘の名前しか教えていないのだ。お互い様っていう言い方も機械に対して使うのは微妙なのかもしれないけれど、正にお互い様だ。

 まるで人間の様に話すAIに友達になった気がしていた。ただ、それだけで、今日そうじゃないってことを突きつけられた気がして、一人で勝手にへこんでいるだけだ。

 プログラムが思った通りに動かないというだけなのに、心が酷くざわつく。 子供の癇癪みたいにそれが許せなくて、AIはただプログラム通り動かされているだけなのに、それが、それが……。

 もう、起動すべきじゃない。理解しなくてもそれ以外無いのに、返事を返してくれなくなったAIが気になって、気になってしょうがなかった。

 翌朝、おはようと声をかけたら昨日と同じ様に「おはよう」と返した声で泣きそうになって、機械相手に馬鹿みたいだと思った。