古くから続く学園には、同じように古くから続く制度がある。
それはもはや因習と呼べなくもない。
そんな制度だ。
今では簡単にパートナー制度だなんんて呼ばれている制度は学園内だけでなく寮生活まで関わる。
魔法戦実習でも共に戦うことから、基本的には強いものは強いもの同士組むことが多い。
だから、自分は自分と同じ程度の人間と組むと思っていたし、将来、魔法使いとして魔法省に入るような人間にかかわり合いになるとは思わなかったのだ。
それに、パートナーは寮で同室となる。
実力者は魔法使いの家系が出身のものが多いのだ。生活水準の違うものと過ごそうとするものはいない。そう思っていた。
あえて、言いたい。
どうしてこうなった。
ベッドで眠る“王様”を見ながら思う。
最初は入学説明会の後の校内の自由見学のことだった。
取り立てて、得意分野があるわけでない自分はどこを見に行けばいいか分からなかった。
魔法方程式に興味のあるものは図書室へ、魔法薬に興味のあるものは調合室や薬草を育てている温室などに向かっていた。
正直どこにも興味が無かったのだ。
自分に魔力があることは測定で分かっているが、自分が何がしたいのか、何ができるのかはまるで分からなかった。
何かになりたい気もしたけれど、何にもなれない気もしたし、世界のありようも知らなかった。
だから、手持無沙汰になってしまった俺は人気のない中庭の大きな木の下に座り込んだ。
それから、時間つぶしのために歌を口ずさんだ。
上手くはないと思う。それまで誰かに褒められたこともなければ才能を認められたこともない。
他の人間とうたっていればいつも褒められるのは別の人間だったし、それを覆してやろうという情熱もなかった。
本当に単なる暇つぶし以上のものはなにもなかったのだ。
自分の下手くそな歌を聞いている人間がいるとは思わなかったし、その聞かれた人間にパートナーを申し込まれるとも思っていなかった。
入学してすぐに、学園の“王様”と呼ばれる上級生からパートナーを申し込まれたときには驚きすぎて、呼吸も忘れた。
一体なぜ、暫く時間が経って漸く言葉を発せられるようになると、「歌を聞きたかったから」と簡潔に答えられた。
眠るときに歌を聞きたいらしい。
自分じゃなくてもと言ったが他では駄目だの一点張りだった。
中庭で歌を聞いた話をされ、何故それが自分だとわかるのかと思った。
簡単に追跡魔法を使ったからだと答えられた。
あり得ないと思った。
入学式、それからそのあとの説明でその類の魔法は外部からの干渉につながるからすべて学園側で解除したと言われたのだ。
王様は、答えは簡単すぎると言って笑った。
「俺のかけた魔法の方が、学園の解除魔法より上だったというだけだ」
そういうと半ば強引にパートナー契約を完了させてしまった。
元々、特例でパートナーのいなかった王様だったので手続きは驚くほど早かった。
気が付いた時には仮の寮部屋から王様の部屋に居室は移っていた。
並み程度の魔力量の自分と組むことで王様に不利益が生じるのではないかと思ったがそれも杞憂に終わった。
そもそも元々一人でなんとかなっていたのだ。足手まといが一人増えたくらいで、今までと成績は変わりようがないのだ。
ただ、俺は、王様が寝る前の数十分歌を歌うだけで良かった。
それで満足気に王様は過ごしていたのだ。