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それから暫くしてようやく、俺が落ち着いたところで、時雨様は、今日の儀式についての説明をした。
俺が伴侶となるために必要なことは2つ、1つは時雨様の真名を知り、呼ぶこと。2つ目は時雨様の魂の一部を俺の中に入れることだ。魂が入ると体の一部に印が浮かぶらしい。
魂を入れるというのがどうにもよくわからず方法を聞くと、口移しで入れるらしい。キスをするということにまた真っ赤になっていると、時雨様は少し申し訳なさそうに、本来の蛙の姿でなければできないと打ち明けた。
できれば嫌わないで欲しいと言いながら、時雨様の姿が霧のように溶けてなくなりその霧が再度集まり始めたなと思ったらそこには茶色い色をした、1.5Mほどの蝦蟇ガエルが居た。
これが時雨様の本当の姿か、等と思い見ていると、頭の中に直接声が響く。

【これが、我の真の姿だ、幻滅してしまったか?】

「別に、女の子じゃないですから、蛙怖ーいとかいうのは無いですよ。それより触ってもいいですか?」

俺、男だしな。別に蛙に嫌悪感とかはない。スッと頭を差し出された気がしたので手を伸ばしてぺたぺたと頭を撫でる。
ひんやりしていて気持ちいい。そのまま、目に触れないように頭の部分をぎゅーっと抱きしめる。
だって目の前にいるのは時雨様なんだから大丈夫と漠然と思った。

屈む様な姿勢になっているので一旦離れて、

「キスしていいですか?」

と聞きながら、自分の唇を時雨様の口先に合わせていく。
俺の唇と時雨様の口が合わさった時、熱い塊のようなものが俺の口の中に入ってきた。

【それが、我の魂の一部ぞ。そのまま飲み込め。】

その塊をゴクリと飲み込む。体中が熱い。はあ、はあというよりゼイゼイと息をして熱さを逃がそうとするがますます熱くなる。体を丸めてやり過ごそうとするが上手くいかない。すると、背中をさすられる。時雨様だ。そうだ、これは時雨様の一部なんだから大丈夫、そう自分に言い聞かせる。徐々に、熱が引いていく。
全く違和感がなくなり体を起こす。

時雨様と目が合う。

「これで終わりですか?そういえば印がでるんでしたよね?どこだろう…。」

自分の腕等を確認するが見当たらない。もしかして失敗したか?とあちこちを探す。

「大丈夫だ。顔に、紋章が出ている。」

時雨様は、社殿の奥に行き、祭壇に飾ってある鏡を無造作に持ってきて俺に見せる。
そこには右側額から目尻にかけてピンクの細かい花の模様が浮き上がっていた。

良かった……。

大の男にピンクのお花の模様は少し恥ずかしい、けれど、時雨様がさも愛おしいというようにその模様を撫でるのでどうでも良くなってしまった。

「しばらくは神界と人界の行き来になろう。今日のところは休まれよ。」

時雨様がそう言う。行き来とはどういうことか聞くと、時雨様は俺の体が向こうにあうようになるまで時間がかかるのでそれまでは向こうに居続けることができないため、こちらにちょくちょく戻ってくるという事らしい。
事前に伝えられなかったことに関してはそれはもう丁寧に謝ってくれたけど、決まりがあって破ると神様であれ、もう2度とこちらの世界に来れないということだったので、仕方がないと思う。
俺の父母のことを考えると甘いのかもしれないけど、二人には手紙か、直接会いに行くかして良く謝りたい。それにこんなに幸せだって伝えたい。
そう、疲れから来る微睡みの中思った。

これは神界でも指折りの鴛鴦夫婦と言われた、蟇の夫婦の馴れ初めの話。

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