※ファンタジー/人外/蛙/現代設定
お社様の森
十六夜 由高(いざよい よしたか)は最近、幼馴染の望月 彼方(もちづき かなた)の家に日参している。
もともと由高と彼方は小学校に入る以前からの友人であり仲が良かったというのももちろんあるが、わざわざ由高が彼方の家に放課後訪問するのには理由があった。
「ああ、由高君いらっしゃい。」
二人が連れだって望月家の玄関に入ると、一人の男が出迎えた。戯(そばえ)さんだ。
ああ、今日もかっこいい。そう思い俺はつい、じーっと戯を見つめてしまう。
こんな素敵な人と一緒に暮らせるなんて、彼方がうらやましいと思う。まあ、あり得ない妄想だなと自分を戒めて、戯さんに挨拶をする。
戯さんは彼方の親戚で、最近、望月家に居候(?)のような形で住んでいるらしい。らしい、というのは彼方に聞いたがいまいち要領を得なかったからだ。20代後半くらいで、茶色い髪と彫りの深い顔立ちがモデルのようで、俺は何故彼のような男がこんな田舎に来たのか、いつも不思議でいる。
彼方の部屋に入り、ようやく緊張を解く。
「今日も戯さん、笑顔が素敵すぎる。」
その辺にあったクッションを抱えながらニヤニヤしてしまう。
彼方には、早々に俺の戯さんに対する気持ちがばれてしまっているので気が楽だ。
「本当に、お前、戯さん好きだなあ。……いい加減見てるだけじゃなくアタックでもしてみたら?」
呆れているような、でも困っているような、そんな微妙な表情の彼方にそう言わるが、あり得ない。
そもそも俺も戯さんも男同士だし、俺は高校生だし。せめて、俺が彼方のようにかわいらしい見た目や性格であったならばまだ、可能性はあったかもしれないが、175cmと、とても女の人とは思えない身長にどちらかと言えは筋肉の付いた体、可愛らしいとは言えない顔、真面目だけど可愛げが無いといわれる性格、どれをとってもあり得ないとししか言いようがない。
「あー、また、何か碌でもないことでウジウジ悩んでいるだろう。由高は綺麗系でモテるんだし、悩むことなんかないだろう。」
「モテるのはお前だろう。」
彼方は人懐っこい性格とそのかわいい見た目で男女ともに絶大な人気がある。俺に少しでも彼方のようなかわいさがあればと、思ったところでどうしようもない。
そもそも、あんなに格好良い戯さんと俺が釣り合うはずがない。
ただ、こうして少しだけ、戯さんを見ることができればそれで満足だ。そう思っていた。
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家に帰ると、玄関に女物の靴がおいてある。今日は兄の婚約者の沙良さんが来る日だった。
兄と沙良さんは幼馴染で高校の時から付き合っていてこのたびようやく結婚すると母が言っていた。二人は本当に仲睦まじいという言葉がぴったりのカップルで、お互いを思いやっているというのが見ていてよくわかる。正直、二人を見ていると羨ましくて、羨ましくて見ているだけと決めた心が、ジクジクと痛むのが分かる。
「ただいま」と声をかけながら、リビングダイニングに入る。いつもなら、母と沙良さんが楽しそうに夕食の支度をしているのに今日は、皆ダイニングのテーブルに向かい合って座っており、一同表情が暗い。いつもはまだ、帰ってきていない父親までそろっており部屋中が陰鬱な空気に包まれている。
「ああ、由高も帰ってきたのか。」
父がこちらを見て声をかける。
「大切な、話があるから、由高もここに座りなさい。」
思いつめた様な表情で父が言う。ちらりと家族の顔を見渡すと、沙良さんは泣いたように目元が赤かった。