籠の鳥の幸せ2

「お前には、もう飽きた、どこにでも行くといい。」

ああ、ついにこの時がやってきてしまったといったところだろうか。
それとも自分を偽っていた罰なのであろうか。

俺は、無言で朧を見つめた。
否、見つめているつもりだった。

「泣くほど嬉しいか。」

苦々しげに顔をゆがめながら朧に言われ、自分が泣いていることにはじめて気が付いた。ハラハラと流れ落ちる涙を乱暴に袖でぬぐって朧を睨み付けた。
嬉しいってなんだよ。

そりゃあ、最初のうちは抱かれるということが初めてだったのもあり、身体が悲鳴を上げてそれはそれはきつかったけど、別に嫌じゃなかった。
朧が俺のことを気に入った理由は明らかに俺の容姿であったため、それにあわせて控えめに振舞ってはいた。

ただ、徐々に俺の元を訪れる回数が減っていき、話しかけられることも少なくなりという状況になっていき、ついに今日最後通牒を告げられた。

雑にごしごしとぬぐってしまったせいで赤くなっているであろう顔で朧を見た。
すでに俺には興味がなくなってしまったようで視線も合わない。

「くそっ。」

今までであれば決して朧の前では使わない本来の口調がポロリとこぼれた。
驚いたようにこちらを見る朧に何故だか笑いがこみ上げてきた。
どうせ、最後なんだからぶちまけちまってもいいよな?

「嬉しい訳無いだろ!!
俺は、あんたの物になれて幸せだったんだから。
悪いか、一目惚れだよ。
けど、俺は残念ながらこんな性格だ。
あんたの好みに合わせられるようがんばったけど、この様だ。
むしろ喜んで笑うのはあんたのほうだろう。」

話している途中で一旦止まったはずの涙があふれてきてしゃくりあげながらの非常に恥ずかしいものとなってしまったが仕方が無い。
でも、言いたい事は言えたと思いたい。

荷物をまとめようとその場を離れようとした時、朧に肩をつかまれて阻まれた。
つかむ力が強く地味に肩が痛い。

「なんでしょうか?」
「今のは何だ?」
「何って、非常に残念ながらこれが俺の地ですが?」
「それはどうでもいい。」

まあ、捨てると確定している男の性格なんてぶっちゃけどうでもいいでしょうよ。
所詮気にしていたのは俺だけってことだ。
ものすごく悔しくなってしまい、ハッと息を吐いてから口を開いた。

「じゃあ、何のことですか?喜んで笑うだなんて、あんたの気持ちを代弁したことがそんなにお気に召さなかったんですか?」
「違う。」
「じゃあ、それじゃあ何だって言うんだよ!?」

ついに捨てられるということは、さすがに堪えているようで、理性で感情を押さえ込むことができない。
激昂して言い返してしまってから、しまったと俯く。

だから、一歩、また一歩と朧が俺の方に近づいてきたことに気が付けなかった。

「お前は、俺のことが好きなのか?」

思ったよりずっと近く、もはや耳元といっていい位置から聞こえるバリトンに顔を上げると至近距離に朧の顔があった。
いつもほとんど表情が変わることが無いし、今もいつも通りの表情に見える。だけど、その中に焦りのようなものを感じてしまうのは俺の勘違いだろうか。
俺より頭一つ分高い位置にある、朧の目を伺う。

「好きだよって」

言ったら何かが変わるのか?そう言おうとしたが、後半は朧の唇に口を塞がれて何も言えなかった。
慣らされきった体はそれだけで熱を持つのだが今はそれどころではない。
俺が口を開こうとした時それをさえぎるように朧が言った。

「一回しか言わない。

――お前のことが好きだ。」

好き?そりゃあ、俺に執着していることは身をもって知っていたし、こうやって囲うくらいだ、それなりに気に入ってはいるのだろうと思っていた。
ただ、それも無くなったと思っていたが、違うのか?
ジワリと赤くなる顔を隠すように俯いた。

「何だ、そんな顔もできるんだな。」

朧に言われ苦し紛れに

「嬉しきゃ、嬉しい顔になるに決まってんだろ、馬鹿野郎!!」

と言い返した。

END