福島は、食事を大体一人でとることが多い。
特に朝食は寮のレストランで食べる。
上背の割には小食な福島にとって朝食はただ胃に入れる程度のものだった。
いつもと同じ時間、丁度部屋を出ようとしているときに、部屋のチャイムが鳴った。
基本的に個室があてがわれている寮では、福島を訪ねてくるものはほとんどいない。
親衛隊が時々訪ねてくるが、それは必ず事前に連絡があった。
誰だろうと不思議に思いながら福島が扉を開けると、そこにいたのは諏訪野だった。
「おはよう。」
いる筈の無い人物に思考が追いつかずそのまま固まる福島に諏訪野は面白そうに笑った。
「お前驚いても、表情変わらないんだな。」
それから「朝飯一緒に食べるぞ。」と簡潔に言う。
状況がのみこめない福島はただ茫然と諏訪野を見つめるばかりだ。
「……転校生とは食べないんですか?」
出てきた言葉は皮肉の様で、福島は唇を噛む。
「俺はお前と食べたいんだけど。」
諏訪野ははっきりと返した。
福島の様子を頭の先から足の先まで確認すると、諏訪野は「それじゃあいくか。」と言った。
「ちょっと待ってください。」
「別に支度できてるんだからいいだろ?」
それだけ言うと、諏訪野は先に歩き出した。
仕方が無く後に続く福島をみて、また諏訪野は笑った。
◆
レストランにつくと、視線が二人に集中するのが分かる。
いたたまれなくなって、福島は諏訪野を見るが別に気にした様子は無かった。
そもそも、二人が一緒にいて言い合いをしていないというのが珍しいのだ。
先程も福島から出た嫌味の様な言葉を諏訪野はそのまま流した。
何が変わったのだろうか。
福島には分からなかった。
いがみ合ってるのは前からだろう。と諏訪野は言っていた。
その通りだと思ったのだ。
福島は嫌いになると言ったのだ。
それなのに何故わざわざ構うのだろうか。
何もかも分からなかった。
福島は配膳された味噌汁をすする。
目の前の諏訪野は朝だというのに山の様な量を食べている。
知らなかった姿が目の前にあって、福島は思わず目を細めた。
「ん?たべるか?」
フォークに刺されたフレンチトーストを差し出して諏訪野が聞いた。
「いや、いらない。」
断ってから何を聞かれたかに気が付いた。
まるで仲の良い友人のようだった。
幼いころに戻ったみたいだと福島は思った。
「甘いもの好きじゃなかったか?」
諏訪野の言葉はどちらにも取れて思わず困惑する。
単に好きじゃないと聞かれたんだと福島は自分に言い聞かせる。
「昔は好きだったよな、甘いもん。」
追い打ちをかけるように諏訪野は言う。
覚えていたのか。驚きで思わず福島は諏訪野をじいっと見つめる。
諏訪野は双眸を下げ「ああ、やっぱり好きだったよな。」と繰り返した。
「覚えていたんですか?」
福島がぽつりと聞くと諏訪野は困ったように眉を寄せた。
「思い出したんだよ。」
その声は優しくて、なぜだか福島の胸がズキズキと痛んだ。
「忘れてくれればいいのに。」
出てきた言葉はいつも通りの嫌味とは少し違う強がりの様な言葉で、諏訪野も今までと違って、苛立った言葉は返っては来なかった。
「思い出せて良かったよ。」
そう言って諏訪野は笑顔を浮かべていた。
その笑顔を福島はどこかで見た気がして、だけど思い出せなくて目を数回瞬かせた。
了