3

颯太視点

夜、目が覚める。
カーテンが開けっ放しで月の明かりがぼくの部屋に入ってきている。

ぼんやりとした光はとても穏やかで……。

穏やかってどんな感じだっけ?
そう考えてからぼくの生活はいつも穏やかだったと思い至る。

昨日は、病院に泊まったから新さんとは別々だったから寂しかった。

それから、今日のことを思い出して、喉の奥がぎゅっと締め付けられた気がした。
何故泣いていたか分からないけれど、新さんが泣いているのをみるのはとても辛かった。
せんせいもかんごしさんも、新さんもぼくが記憶を失っていると言っていた。
ぼくにはよく分からなかった。

何かを忘れている気もするし、そうでない気もする。
思い出したいって心の奥で言っている気もするし、今のままがいい気持ちもあった。

不思議な気持ちで毎日すごしていた。

ただ、ここを離れたい気持ちはなかった。

目が覚めてしまって、喉もからからに渇いていて水を飲もうとキッチンへ向かう。

薄暗い廊下をダイニングに出ると薄暗いままの部屋で新さんが一人で座っていた。
テーブルには何本もお酒の缶が転がっていた。

「ん?颯太おきちゃったのか?」

やや、ろれつの回らない声で、そう話しかけられ思わずぞくりとしたものが背中をかける。
今のはなんなのだろう。

胸がどきどきする。
笑顔を浮かべぼくの世話を焼いてくれているのはなんとなく分かったけれど、その浮かべた笑顔が辛そうで苦しそうで思わず新さんのシャツのすそをつかんだ。

「ぼくがいけないの?ぼくが新さんにそんな顔させちゃってるの?」

それとも、おいしゃさんが言っていた前のぼくがそんな顔をさせちゃってるのかなあ。

「ぼくだったら、絶対新さんをそんな顔させないのにっ!」

ぼくが叫ぶと、新さんは目を見開いて――。

それから、それから……。

«   »