久しぶりにアルフレートが王城から帰ってきた。
今日は満月で、月明かりが薄ぼんやりと光っていてとても綺麗だった。
グレンは窓際にある椅子に座るとグラスにウィスキーを注いだ。
アルフレートの屋敷での生活はいつまでたってもあまり慣れない。
娘は直ぐに使用人とも馴染み、父であるアルフレートにも懐いた。
今も、アルフレートが娘の寝かしつけをしている。
普段城内で暮らすアルフレートはこうやって自宅に帰ってくると娘にべったりだった。
寝かしつけといっても、ベッドの横にある椅子に座って、話をして、本を読み歌を歌うだけだ。
その時間が、アルフレートにとって、とても大切な時間だという事を知っている。
娘に向ける顔が何より優しい。
そんな優しい顔は全く見たことがなかったので最初こそ驚いたが、優しい気持ちになることが出来たアルフレートを見て嬉しかった。
なのに、アルフレートは俺が顔を出すと、照れたようにその表情を引っ込めてしまうのだ。
また魔獣が表れても、どこかの国と戦争になってもきっとアルフレートはそんな顔をする余裕が無くなるだろう。
だから、娘との時間を大切にしてやりたいと思った。
月を見ながらグラスを傾けていると、アルフレートが戻ってきた。
俺の向かいの椅子に座る。
「お疲れさん。」
適当にアルフレートの分もウィスキーをもう一つのグラスに注ぎ渡、した。
戸惑った様に、グラスと俺を見比べるアルフレートを見て不思議に思う。
「飲んで、いいんですか?」
「飲んでいいんじゃねーのか?」
何のことを言っているか分からなかった。
「だって、俺アンタと飲むたびに……。」
顔をぐしゃりと歪めてアルフレートは声を詰まらせた。
それで漸くなんでアルフレートが戸惑ったのかが分かった。
「アルフ、お前ばっかじゃねーのか。
一滴も酒入って無くても、犯したって言ってたのどこのどいつだよ。」
ばかばかしくて盛大に笑った俺をアルフレートはぽかんと見つめていた。
「そもそも、愛の営みってのはそんなにしちゃ困るもんなのか?」
別に減るもんじゃないし、堂々としてればいいのに、こいつは馬鹿だ。
戦わせたら国で一番強い男の態度じゃないな、なんて思っていたら、アルフレートは娘に向けるのとはまた別の優しい顔をして言った。
「俺を、幸せにしてくれてありがとう。」
突然だったので、思わずはっ、という吐息が漏れた。
そんな事を言われるとは思わなかったのだ。
ほとんど会うこともなく、筆まめでもないので連絡を取り合うこともなく、アルフレートにとっては男の伴侶を持った変わり者としての面倒さが増えただけのものだろうと思っていた。
愛し愛されだけで生きていけないことも、腹も膨れないことも知っている。
だけど、本当に幸せそうに笑うアルフレートを見て、俺も幸せだなと思った。
「俺も、結構幸せだな。」
言った後、猛烈に恥ずかしくなって、グラスに残っていたウィスキーを一気にあおった。
それを、見たこともない位双眸を下げたニヤニヤ顔で見つめていたアルフレートが無性にムカついて、足を動かしてすねを蹴ろうとするも余裕をもってよけられてしまい。
ぶつけられない居心地の悪さを抱えたまま、もう一杯ウィスキーをグラスに注いだ。
END