「なんで、葛西が謝るんだよ。」
葛西が謝らなければならないような事は何一つ無い。
「だって俺、お前の事けしかけたじゃねーか。」
居心地が悪そうに葛西は答えた。
「は?別に遅かれ早かれ気が付いてただろ?」
初恋もまだの中学生な訳でもないのだから、葛西が俺に言おうが言うまいが何時かは恐らく気が付いていた。
それがたまたま昨日だったというだけだ。
幸いなのかどうなのか分からないが、あいつのクソふざけた態度は実際イラつくので今まで通りにはねのけられている。
別に真っ赤になって、恋する乙女のようにもじもじするような事態には陥っていない。
「どう見ても、佐々木先輩は山中の事好きだと思ったんだけどな。
そもそも、少なくとも執着してんだろ。わざわざ大学で見せつけるようにキスしてんだからさ。」
俺の代わりに怒ってくれる友人に笑みがこぼれる。
「まあ、あの馬鹿に一般的な感覚を求める方が無理だったってことだ。」
「だからって、これじゃあ、あんまりだろ?」
別にあんまりだとは正直思ってはいないのだ。
あの馬鹿が、おかしいなんてことは出会ったその時から分かっていたことだし、そもそも恋愛感情を誰にも抱かないそう言われて俺自身妙に納得してしまったのだ。
祖父の研究を見ていた時の真剣な姿を覆い隠すようにしたあの胡散臭い態度の理由がようやく分かったのだ。
意味不明としか言いようのない優越感があるのは事実だ。
たとえ好きって気持ちが無くてもと、期待してしまう気持ちが全く無いかといえば嘘になる。
まあ、ことごとくその期待はあの馬鹿自身に粉々にされそうだと思うし、事実そうなるのであろう。
自分の趣味の悪さに乾いた笑いがこみ上げる。
「まあ、愚痴くらいは聞くぞ。」
葛西の申し出はありがたい。
「同性同士とか気持ち悪く無いのかよ。」
「あれ?言ってなかったっけ。俺バイセクだよ?まあ、突っ込むの専門だけど。」
聞いておりませんが。ああ、だから俺に普通に話しかけられたのか。
というか何だ、突っ込むの専門って。
「ま、まさか俺が突っ込まれるの専門だとでも言いたいのかよ。」
恐る恐る聞いてみると葛西は恐ろしくイイ笑顔を見せた。
そういう覚悟も勿論出来てませんから。
どう考えても無理ですから。
あー、想像してはいけない、気持ち悪い大惨事にしかならないのだから考えては絶対に駄目だ。
うんうん唸って雑念を払おうとする俺を葛西は指を指して大笑いしていた。