すべての資料を戻し終えた馬鹿は、その無駄に整った顔を俺に近づけ覗き込むようにして「大丈夫ですか?」なんて聞いてくる。
はっきり言って大丈夫じゃないですから。
頭痛がする気がしてこめかみを抑えながら渋い表情になる。
自分から切り出してしまったのだ、仕方がない、諦めて馬鹿と戻り夕食の配膳をした。
ロールキャベツと味噌汁とご飯それから、きゅうりの浅漬け。
盛り付けも適当だし、和洋折衷の献立たけど、どうしても今日は肉の気分だったしスーパーへ行ったら春キャベツが美味そうだったのでこうなった。
男の料理なので、細かいところは気にしない事にしている。
残ったら、明日以降食べればいいと多めに作ってあったので、馬鹿の分もある。
断じて、馬鹿のために作った訳ではない。
馬鹿は少し驚いた表情をしていた。
悪かったな形悪くて。
「いただきます。」
まあ、腹に入れば一緒だろう。
俺が食べ始めると、馬鹿も箸をつける。
「……おいしい。」
ぽそりと聞こえるか聞こえないかという小さい声で漏らした馬鹿の声。
でもそれはしっかり俺の耳に入って……。
「手料理なんて久しぶりです。本当においしいです。」
そう言って笑顔を浮かべながら、馬鹿は食べていた。
共通の話題等殆ど何もなく、ほぼ無言のまま食器は全て空になった。
後片付けは手伝うと言われ、二人で洗い物をした。
それも終わり、馬鹿の方を見ると
「お風呂は先に貴方が入ってくださいね。」
と言われる。
というか先って何だよ。
後は無いぞ、今日は絶対泊めないぞ。
ギロリと睨むが馬鹿はどこ吹く風だ。
「ああ!!もしかして一緒に入りたいんですか?」
「どこをどうするとそうなるんだ?」
イライラしながら返す。
泊まって行くことは馬鹿の中での決定事項なのか!?
「っつーか、そろそろ帰れよ。」
吐き出すように俺が言うと。
「帰るって、家がないという話は昨日したじゃないですか。まだ読み終わっていない資料もありますし……。もう少しで神経伝達の関連の資料を一通り確認できるんですよ。」
若干目を潤ませながらこちらを見つめる。
なんだこれ?俺が悪者見たいな雰囲気になってないか?
いや、俺全然悪くないよな?そうだよな?
「ネカフェでもホテルでも泊まればいいだろ。」
だめなら大学でもいい。
俺の願いもむなしく、馬鹿は俺の目の前まで近づくと向き合った形のまま、何故か、本当に何故か、俺の尻をもんだ。
自分の身に何が起きたのか分からずパニックを起こしそうになった。
「何なら、体で宿泊料払いましょうか?ご奉仕しますよ。」
「そんなもん、いるかー!!」
ほぼ条件反射的に言い返す。
すると馬鹿改め変態は俺の返事は予測済みだったかのように
「それでは、宿泊料は別の方法で、お支払いする事にします。」
と言って、昨日案内した客間にとっとと引っ込んでしまった。
完全に変態のペースになっている。
ここで、何とかしないまずいと本能が言っている。
その日は結局深夜まで一人脳内会議で変態とどう縁を切るかを延々と考えていた。
結局いい案なんてものはこれっぽっちも浮かばなかった。