「じゃあ、昨日からで。」
と言って理一は笑った。穏やかな笑顔だった。
それは、白崎が見たことのある笑顔とは違って、はにかんだ様なそんな顔だった。
「そうか。」
白崎はそう答えただけだった。
一総が切り裂いた理一の腹はもうふさがっている様に見える。
「それ、病院に行かなくて……。」
「大丈夫。体だけは丈夫だから。」
理一は答えた。白崎は妹であるアイラをちらりと見た。
一抱えはありそうな真っ赤な石をアイラは軽々と持ち上げる。
「病院に行ったところでどうにかなるものじゃないですよ。」
アイラは兄に向って微笑んだ。
「後は俺の方で見るから大丈夫だ。」
一総はそう言い切ると「家の間の話しは明日以降にしてくれ。」と言った。
「勿論です。この度は突然の訪問で申し訳ありませんでした。
いずれ必ずこの御恩は返させてください。」
「できることなら“兎狩り”以外で。」
理一が答えるとアイラは、「その未来を確定させるために私も全力を尽くしましょう。」と言った。
「ということだから、あんた等兄妹は帰れ。それから木戸は寝ろ。」
一総はまるで追い出す様に二人を外に出す。
「アンタも部屋に帰るんですか?」
理一が一総に聞いた。
「ああ、状況がわかってないのか。
ここは俺の部屋だ。」
「……は?」
確かに白崎兄妹を自分の部屋に招いて、それから……。
ぐらり。
眩暈の様なものを感じる。
「ひどい顔色だ。
何かスープでも作るからまずは休もう。」
一総が言う。
「待って、待ってくれ。」
理一が言葉をかけると、一総の視線が揺らめく。
「俺が石を渡したのは。」
「それは、木戸の望みだったから。術にかけたのは全員の視覚情報とそれから木戸の痛覚の一部だけだ。」
本当なら、痛みを感じないでと思ったんだが木戸は本当に俺の術にかかりにくい。
一総は申し訳なさそうに笑った。
「なら、よかった。」
眩暈が一段と酷くなる。
支える一総の手の力がこもった気がした。