71

部屋に着くと、一総が溜息をついた。

「俺の能力もこれも、こんな事をするためにあるんじゃないからな。」

アイラに向かって言い放つ。

とにかく切るものをと奥に行こうとする理一の腕を掴むと「俺がやる。」と伝える。

「俺への願いはそれだろう?」
「まあ、一人でやれば狂うか仕損じるかするでしょうから。」

アイラが軽い調子で答えた。一総が今日何度目か分からない舌打ちをする。

「俺が木戸を傷つける前提の計画って訳だな。」
「だから、今日を選びました。」

アイラの顔からは表情というものが消えてしまっている様に見えた。
真剣な眼差しで理一をそれから一総を見る。

「よろしくお願いします。」

アイラは静かに頭を下げた。

「妹が酷い事を言っているのは分かっているし、俺も無責任な事言い続けてるって自覚もある。」

だけど、俺からも頼む。白崎は顔をぐしゃぐしゃにして言う。

「大丈夫だよ。」

理一は笑顔を浮かべて言った。

「済みません。」
「じゃあ、最初からやるな。」
「……済みませんっす。」

理一が言葉を繰り返すと一総は困った様に笑った。
それから、自分の胸元とトントンと指して「これは使って良いよな?」と聞いた。
理一は一回しっかりと頷いた。

『力を抜いて、動くな。』

一総は迷いなく言うと、右手を理一に向かって右手を差し出した。
一総の右手は、理一のみぞおちより少し下を抉り取るように貫いた。

«   »